DATE 2009. 3.29 NO .



「――なぁ」

 ジタンは、「それ」を見下ろした。

「もう終わりか?」

「……っ、う あ……」

 戯れに壊す贋者共とは違い、それは血を流した。
 身体に沈めた足は、鼓膜の振動以上にそれの荒い息遣いを伝える。

「獣でもさ、生きるためには闘うだろ? 天敵に遭遇したら全力で逃げるし、逆に大きい相手に立ち向かう時だってある」

 けれど。

「まともに抵抗すらしないお前はさ、生きてるっていえるのか?」

 薄く開いた眼には確かに光があり、辛うじてジタンを捉えてはいる。

 けれど。

「……コスモスのお人形サマは大変だよなぁ」

 それは、何も言わない。
 贋者共とは違い血を流しても、贋者共と同じようにされるがままになっている。

 仲間達と同じように声高に叫ぶ事も、ない。
 ただ血に塗れる、だけ。

「今この世界で生きている――ただそれだけの事も、自分で証明出来ないのか」

 目の前に転がっているそれが、闘う力を持っていないわけではない。
 そう知っているからこそ、ジタンは苛立ちを覚えた。

「お前、死んでるのと同じだよ」

 足を戻し、それの傍にしゃがみ込む。
 これだけ近づいても、まだそれに反撃の兆しは見えない。

「そんな奴、世界に要らない――じゃあな」

 ジタンは盗賊刀をそれに向けて振り下ろした、はずだった。

「あ、れ……?」

 揺れた自分の声を遠くに聞く。
 切っ先は、それに触れるか否かのところで小刻みに震えていた。

「何…で……」

「…ぉまえには、りゆうが、いる…のか」

 ふいに、それが口を開いた。

「きおくが…つみ、かさなって…いまが、ある」

 ジタンは刃を突きつけたまま、その唇の動きから目を離せずにいた。

「めには、みえなくても」

 それがジタンの手を掴み、

「どこかに、かならず…っ」

 己の身体から切っ先を退ける。
 笑いたくなるくらい弱々しいその力に、だがジタンはまるで抗えなかった。

 それの手が、今度は頬に触れた。
 血に濡れた指先が滑り、朱の道を残す。

「おれは、まだ……」

 そしてジタンの胸元にそっと触れ、

「……そこにいるんだ、な――――」

 ぱたりと、落ちた。






 動かなくなったそれはやがて、白い光に包まれて、消える。

「……」

 あとには血だまりだけが残った。
 ゆっくりと、冷たい地面に染み込んでいく。

「オレは、カオスに喚ばれた者として」

 そして瞼裏には、魂を失くした器の最期の表情が描き出されていく。
 それは何故か心を軋ませる、笑顔の――

「ここで生きてる。誰に否定されようとも、ここで…!!」



 頬に残った朱を拭う。

「どうせまた帰ってくるんだろ……次は間違いなく縫いつけてやるからな」

 盗賊刀を手に、ジタンは立ち上がった。







≪あとがき≫
 四個目、ジタン=トライバル。「9」クリアおめでとう。
 今度は回避しませんでした死にネタです。お祝い? 何それおいしいの?
 このサイトのDFFは異説だらけですが……うんまぁこれも闘いの輪廻って事で……
 クジャ化は全力で回避…した…はず……

 迷ったらバッツ、なこの10題(!)ですが、敢えて全部平仮名にしてみましたどうですか某M氏! がんばったらスコールにも見えませんか!





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